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【映画と奇談 #1】あの『進撃の巨人』にも影響を与えた600年前の実在“人喰いファミリー”とは?

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人喰い族は実在した

 

とある若い夫婦が、スコットランドの海辺を歩いていた時の出来事だ。

 

優雅な自然を満喫し、仲睦まじい時間を楽しんでいた2人だが、突如として5〜6人の男性グループに襲われ、身ぐるみ剥がされると、そのまま夫婦は人目のつかない洞窟へと連れ込まれそうになる。

 

間一髪、夫はこの野蛮な軍団から逃げ出すことに成功するも、妻は彼らに拉致され、薄暗い洞窟の奥へ消えて行った。

 

もちろん夫がやるべきことはひとつ。スコットランドの地元警察へと駆け寄り、愛する伴侶が連れ去られた洞窟を捜索することである。

 

歴史を振り返れば、このひとりの男性の勇気ある行動によって、スコットランド史上最悪のおぞましき恐怖が明らかとなったのだ。

 

悪魔の起源

 

時は、1390年代のスコットランド、エディンバラ市にあるイースト・ロージアン。海辺のこの小さな町で産まれたのはアレクサンダー・ビーンという名の活発な少年で、彼の生まれた年は、前述の若い夫婦が襲われた出来事のおよそ25年前のことである。

 

ビーンは決して裕福な家庭に育ったとは言えず、幼年期から父親の日雇い労働を手伝うなどし、日々の生活に勤しんでいたものの、その質素で過酷な暮らしに耐えきれず、家出を決意。親しくしていた1人の女性と半ば駆け落ちのような形で故郷を離れていった。

 

もちろん、十分な金を持っていないビーンとその女性にとって、駆け落ちをしたところでどこかに安定した衣食住を営むアテがあるわけでもない。結果的に彼らの行き着いた先は、エディンバラから遠く離れたノース海峡に面したスコットランド南部の海辺だ。

 

いや、もう少し厳密に言えば、とある海岸沿いにある不気味な洞窟である。

 

金ナシ、人脈ナシ、さらには生きていく知恵や教養すらもない2人が、その不気味な洞窟を生活の拠点とするまでに、さほど多くの時間を必要としなかった。

 

彼らは日々の暮らしを支える為、洞窟付近の海岸沿いを行き来する旅人を襲撃し、金品や貴重品を盗み取ってはそれらの旅人を片っ端から殺害することで、証拠や証言を残さぬように奔走。旅人の遺体は必ず住みかである洞窟の中に持ち帰ったという。

 

異様習慣の始まり

 

だが、そのような“荒手な”生活スタイルがいつまでも続くわけもない。

 

飢えをしのぐ為にビーンと女が選んだ最後の手段こそ、その旅人を食べることだったのだ。また性欲も旺盛だったビーンと女はその洞窟内で情事を繰り返し、男女合わせて14人もの子供を出産。一般社会から隔離され、人間を襲う時以外は常に洞窟に篭ったままの14人の子供たちはいかなる教育すらも受けることなく、互いに近親相姦を重ねていく日々を送ると、最終的に“ビーン一族”は50人もの大所帯となった。

 

これは後に判明した事実だが、近親相姦の末に誕生した子供たちは適切な言語を話すことができないにも関わらず、人間を殺害し、その死体を食す為の加工技術には目を見張るものがあったという。

 

いつしかビーン・ファミリーの狙いは海辺を歩く旅人の金品ではなく、“旅人そのもの”となり、襲撃のスタイルや戦略も徐々に洗練されていく。

 

狙う旅人は常に1〜2人の小グループのみに絞り、どの方向へ逃げられても捕まえられるよう、囲むように仲間を配置。巧みなチームワークが功を奏したのか、ビーン一族に襲撃されて奇跡の生還を果たした者はひとりも存在せず、被害者はそのまま“行方不明者”となるだけだった。

 

その為、海辺付近に住む地元民たちでさえ、ビーン一族が洞窟内で恐ろしき生活を営んでいることは知らず、実に25年もの間、世間に発覚することはなかったのだ。

 

もちろん人類の歴史上、ヒトの肉を初めて食したのがアレクサンダー・ビーンなのかは分からない。だが、彼のように長期的に“食べ続けた”人間はごく稀だろう。

 

裁きのとき


ヒトを襲い、喰らいながら、近親相姦を繰り返す。25年間にわたって続けられてきた一族による野蛮な生活スタイルにもいよいよ終焉の時が訪れた。

 

いつものように一族の若手がチームを構成し、“狩り”のために海辺へ出発すると、2人の男女をターゲットに据える。冒頭で紹介した若い夫妻だ。ほんの些細なスキに加え、どこか油断があったのかもしれない。彼らは妻を殺すことには成功したものの、夫を取り逃がしてしまい、そのまま見失ってしまう。

 

命からがら逃げ切った夫はすぐさまグラスゴーの街へ駆け寄り、こう叫んだ。

 

「妻が喰われる! 誰か助けてくれ!」

 

この叫びこそ、ビーン一族の悪行を暴くキッカケとなる最初で最後の証言である。

 

時のスコットランド国王ジェームズ1世はこの前代未聞の叫びを耳にし、400人の屈強な兵士と猟犬を準備すると、男の案内の下でその襲撃現場へと出向く。連れてこられた海岸沿いは人通りもなく、静まり帰っていたものの、しばらく捜索を続けていくうちに“ある異様な臭い”が兵士たちを包み込んだ。

 

もちろん、その悪臭の根源はあの洞窟だ。

 

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ビーン一族が住処とした洞窟とされるサウス・エアシャーの海岸

 

奥行きが1.6kmもある巨大な洞窟の先に進むと、そこには無数の遺体に加え、人骨や内臓、さらにはビーンと女によって無計画に増やされた多くの親族たちで溢れかえっていた。

 

国王は言葉すら通じない彼らを正当な裁判にすらかけることなく、すぐさま極刑を宣告。一族の男は両手両足を切断し、出血した状態で放置すると、その様子を一族の女に見せつけ、その女たちは最終的に火あぶりにしたという。

 

消えない"ビーン一族の負の遺産"


これにてビーンを長とする一族の悪行に終止符が打たれたものの、彼のフルネームでもある「アレクサンダー・ソニー・ビーン」という名はスコットランドの歴史に暗い影を落とし、事件発覚から600年が経過した現在においてもその余波は微かに残っている。

 

映画界では、『悪魔のいけにえ』シリーズをはじめ、『クライモリ』や『テキサス・チェーンソー』などのスプラッター作品に多大な影響をもたらし、『スター・ウォーズ』や『ジャッジ・ドレッド』に登場する荒野の洞窟を住処とする蛮族なども全てビーン一族が“原案”となっているのだ。

 

アメリカで製作されるスプラッターモノの多くはそのストーリーに共通性がある。田舎町をドライブ、又は旅行する若者のグループが現地で何者かに襲撃され、謎めいた場所へ拉致されると、肉や皮を剥ぐといった蛮行に晒されるというものだ。映画を鑑賞する機会の多い方であれば、このようなテンプレ作品に遭遇したことがあるだろう。

 

ビーン一族による600年前の人喰い事件の影響はそれほどまでに大きなものであり、日本のアニメ界でいえば、諫早創氏の人気作『進撃の巨人』に“ソニー”と“ビーン”という名の凶暴な人喰い巨人も登場する。


あなたも人気のない海辺や森の中を歩くときは、是非とも周囲に注意を払うべきだろう。

いや、気付いた頃にはすでに頭部と胴体が別れているかもしれないが。。

 

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